「珍入者」

 

それは一昨日のこと。

パソコンの前に座っていた私は、階下でゴトゴトと激しい音がしているのに気付いた。

(チッ、またお父さん、何か始めたな)

と苛立ち半分で階段を下りていくと、父はキッチンで飯を食っていた。

「あれ?」

そう思い、音のした玄関先へと視線を流す。

すると

玄関に続く廊下のど真ん中に、何故か猫の置物(ホームセンターなどで見かける重いやつ)が仰向けに転がっていた。
(最初、何かの死体だと思った)

「お父さん・・・何をしたんや?」

怒りを堪えながらそっと尋ねれば、「そんなとこ行ってないで」と答える父。

相手は物忘れ度80%の人間。

無理に追及しても仕方ない。

仕方なく、猫の置物を元通りに戻し、欠けたところがないか確かめていると、どこからか涼しい風が入ってくる。

玄関はびっちり閉まっているし、となると・・・・

卯月「あれ?座敷開いてる・・・・ガラス戸と障子・・・・」

父「ほんまやな。」

二人で呆然としながらも「泥棒」の二文字が頭を過ぎった。

卯月「やばい、誰か侵入したんちゃうか?」

父「鍵かけてなかったんか?」

慌てて座敷中見渡すと、襖の至る所に隙間があって・・・それは明らかに侵入者の痕跡。

お坊さんが座る特別な座布団も乱されている状況下、私は混乱した。

卯月「中に居らんよな?」

緊張が走る。

父「あ。あそこに猿おるで。」

卯月「は!??」

指さされた庭先のアプローチを見れば、そこには図体のでかい猿が一匹、確かにこちらを向いていた。

 

「あ・・・・・くそ、やられた・・・・」

よくよく見分すれば、障子の下の方に彼によって開けられた穴がしっかり。

実はここ一ヶ月ほど、村には猿が出没している。

実際私も何度か見かけたが、悠々としていて正直、ふてぶてしい。

ご近所の家でも猿に侵入され、カボチャをかじられたりと・・・わりと害はある。
(それも囓った残りカスを車の上に放置する悪行)

「戸締まり」のアナウンスは村によく流れていたので、自分ではしっかりしたつもりだったが、そこだけ忘れていたのだ。

猿は何度もこちらを振り返りながら、県道を歩いて行った。 <逃げていったのではない。あくまでも歩いていた

キッチンに父がいなければ・・・・恐らくは色んな場所が荒らされていたことだろう。

平気で冷蔵庫なんかも漁ると思う。<ノラ猫でも出来るくらいだから猿も余裕

こうなるともう、正面玄関は閉め切り状態にするほかない。

猿が特別憎いわけではないが、かといってウェルカムで迎えたいものでもない。

今のところ、捕獲したという情報は聞かないし、もしかすると捕まえるつもりもないのかもしれないが、

まだまだ居座る気満々のお猿さんは、虎視眈々と家の中を狙っているはずだ。

 

 

 

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